運動と現象を捉える為の概念

運動と現象を捉える為の概念を考える上で理解しておきたい概念がある。それは「抗重力位」「従重力位」「短縮位」の概念である。

「従重力位」「抗重力位」「短縮位」の概念


このことを分かりやすく説明するために、まず図1を見ていただきたい。図1-aは1本の棒を左右の紐が引っ張り合いながらバランスが釣り合っている状態を示している。この時、棒が垂直に位置してれば、左右の紐を引く力はほとんどいらない。しかし 図1-bのように棒が右に倒れると、棒が倒れないようにするために、左の紐を強く引かなければならない。 一方、右の紐は弛み、紐を引く力を入れる必要がなくなる。この時、左の紐は倒れる棒を重力に抗して制御しているので「抗重力位」の状態にあると表現し、右の紐は重力によって棒を制御する必要がないので「従重力位」の状態にあると表現する。

また、これと同じような棒の位置になる状況は他にもある。例えば、図1-cのように右の紐が短い場合は、どうしても棒は右に倒れた状態になる。この時、右の紐は常に棒を近づける位置となり、この状態を「短縮位」と表現する

厳密にいえば、図1-b の右側の紐も短くはなっているので「短縮位」ではある。しかし、この場合を筋に例えると、筋が短縮もしくは緊張しているのではなく緩んでいるだけである。このため生体で考える時には、筋が短縮もしくは緊張している場合に生じる「短縮位」とは分けて捉えることが臨床では大切である。

「従重力位」「抗重力位」「短縮位」が股関節と骨盤の肢位に与える影響


図1で説明した「抗重力位」「従重力位」「短縮位」の概念は、生体での力学を考える時に重要な概念となる。

例えば、図2-aのような立位姿勢の場合、股関節より上の質量は前方位となるため、大殿筋などの股関節伸展筋が「抗重力位」となり、股関節伸展モーメントを担う。逆に、図2-bのような立位姿勢の場合は、股関節より上の質量は後方位となるため、腸骨筋などの股関節屈曲筋が「抗重力位」となり、股関節屈曲モーメントを担う。

一方、腸骨筋などの股関節屈曲筋が短縮している場合や筋緊張亢進を呈している場合、股関節屈曲と骨盤前傾が生じる(図2-c)。

さらに腸骨筋などの股関節屈曲筋の筋力が低下している場合や筋緊張が低下している場合においても、「従重力位」をとろうとするため、股関節屈曲・骨盤前傾位を呈することがある。股関節伸展に伴う体幹後傾した姿勢を保持するためには、股関節屈曲モーメントが必要となる(図2-b)。このため、股関節屈曲筋の筋力が低下した場合や筋緊張が低下した場合、重力に抗して股関節伸展が行えず、「従重力位」となるように股関節屈曲・骨盤前傾することがある(図2-d)。

このように 図2-a、c、d については、ほとんど似たような立位姿勢であるが、状況は異なっていることが分かる。 一般に図2-aの姿勢は、股関節屈曲筋の短縮や筋緊張亢進を伴うことで生じると考えられているが、筋力低下や筋緊張低下によっても、図2-aの姿勢が生じることが分かる。つまり、図2-a は股関節伸展筋が「抗重力位」となり股関 節屈曲・骨盤前傾を保持し、図2-cは股関節屈曲筋が「短縮位」となっていることで股関節屈曲・骨盤前傾が生じ、図2-d は股関節屈曲筋が弱化しているために「従重力位」となるために股関節屈曲・骨盤前傾が生じている。

理想的な座位姿勢から脱力した時の変化


ここまで説明した内容をさらに理解するために、次に座位の筋活動においても「抗重力位」「従重力位」「短縮位」の概念で考えてみたい。

まず 図3-aを見ていただきたい。この姿勢は理想的な座位姿勢である。この姿勢から「力を抜いて座ってください」と声をかけると、図3-bのような体幹が屈曲した姿勢になるであろう。すなわち、脱力すると体幹は屈曲することから、 図3-aの時に「抗重力位」を保つために働いているのは主に体幹後面の筋であることが分かる。生理的な腰椎の前弯位を保つ必要があることから、多裂筋や最長筋が活動していると考えられる。一方、体幹前面の筋は「従重力位」となり、理想的な座位姿勢を保つために腹直筋などの体幹前面の筋はそれほど活動していないことが分かる。

一般に、良い座位姿勢には腹筋が重要だと考えられているが、実は静的な保持だけを考えるのであれば、多裂筋と最長筋が活動していれば事足りると筆者らは考えている。

リーチ動作


リーチ動作の場合においても同様のことが言える。図4に示したリーチ動作ではaとbどちらの場合においても、体幹後面の筋が「抗重力位」となり、体幹前面の筋は「従重力位」となる。図4-aでは多裂筋と最長筋がより優位に活動し、図4-bでは腸肋筋がより優位に活動する違いはあるが、あくまでも体幹後面の筋が主体に活動し、体幹前面の筋はそれほど活動を必要としない。

こうしたことから、「運動」と「現象」を捉えるために、セラピストは姿勢や動作の観察から的確な評価を行い、治療に結び付けることがいかに重要であるかが分かるはずである。

参考文献

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