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正常を知ることが異常を捉える近道


立脚期には重心が膝関節に対し内側にあるため、身体は内側に倒れようとするため、膝関節は内反方向に力が加わるのである。しかし、その外反モーメントをできるだけ最小化しようとするメカニズム・戦略を歩行の際に使用していると考えられる。健常者がどのようなメカニズムを使い、どのように外反モーメントを小さくしているかを考えることで、膝OAの膝関節外反モーメント(以下KAM)をより深く理解できるはずである。またそのことで行うべき運動療法が推論でき、結果的に外反モーメントが減少すると考えられる。


KAMを最小化させるメカニズムは2つある。1つは初期接地(IC)から荷重応答期(LR)にかけて、もう1つは荷重応答期(LR)から単脚支持期(MSt)に移る際である。この2つのメカニズムを使って、私たち健常者はできるだけ外反モーメントを小さくしているのである。それでここからこの2つのメカニズムについて、1つずつ説明をしていきたい。

筋の硬さや筋緊張の亢進が生じる背景には、力学的な要因が多分に影響している。これらの評価をすることは、症例ごとに生じている力学的負荷を予測することに繋がる。

KAMを最小化させる第1のメカニズム

初期接地(IC)から荷重応答期(LR)にかけて、大腿骨に対して下腿骨が内旋位になることによって十字靭帯が緊張し、前額面で安定する。もし内旋位になれなければ、膝を伸展、外旋しロッキングしなければ、安定性は得られなくなり、効率的な歩行は困難になる。膝OAの症例では、屈曲位で内旋位を作れないことが多いため、症例によっては故意的にロッキングして歩く例もある。このような場合、骨性の安定性を得られるが、スラストを強めることになる。

KAMを最小化させる第2のメカニズム


健常者の歩行では、荷重応答期(LR)から単脚支持期までに骨盤はスウェイ運動(並進運動)および骨盤を前傾させるため、体幹の質量中心が膝関節の近い位置に乗ることで、立脚期のKAMを最小化させている。しかし膝OAでは、これらのメカニズムが作用せず、KAMも減少させることが難しい状況で生活している。

こうしたKAMの知見は、私たち理学療法士を中心とするセラピストにとって、膝OAの治療の重要な糸口となるだろう。運動力学的視点から、健常者と膝OA患者の相違を深堀りして知ることが、KAMを最小化する治療の発展の事始めとなるからである。