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なぜ”最後の10度”が伸びないのか?

膝関節におけるextension lagとは、自動伸展可動域が他動伸展可動域に至らない現象を意味している。一部の書籍には、「最後の10度」あるいは「なんとかぎこちなく伸展できる角度」と表記されているものもある。extension lagがあると、歩容悪化(屈曲位歩行、伸展位歩行)、膝関節不安定性の増大、易疲労感、活動性低下、階段昇降動作困難、変形性関節症の進行などの問題点へとつながる。

1extension lagの要因

extension lagを有する症例の訴えとしては、大腿四頭筋の「収縮が入らない」、「収縮の仕方が分からない」、「膝蓋骨が引き上がらない、または動かせない」、「膝が伸ばせない」などの表現が多く聞かれる。このような現象は、筋が最大短縮位まで収縮する機能、すなわち近位収縮距離(proximal amplitude)が不十分であることを意味している。この機能を満たせない要因としては、1次的要因と2次的要因がある。


extension lagの1次的要因としては、反射抑制(reflex inhibition)、腫脹や浮腫、伸展機構損傷、疼痛などが挙げられる。extension lagの2次的要因は、筋力低下(廃用症候群)、癒着や瘢痕が挙げられる。extension lag発生の1次的要因である筋収縮不全が長期化すると、筋力低下(廃用症候群)や癒着などの2次的要因も重なり、その改善に難渋する(上図)。これを踏まえ、以下にextension lagの評価と治療について説明する。

2extension lagの評価


筋力低下(廃用症候群)が要因の場合は、伸展可動域および膝蓋骨の可動性に問題がないにもかかわらず、膝蓋骨を近位方向へ引き切れないために生じる。この際に重要な評価は、他動的には膝蓋骨が十分近位に移動できることを確認した上で、大腿四頭筋の筋収縮を行わせ、膝蓋骨の近位移動距離を観察することである(上図)。


癒着や瘢痕が要因の場合は、伸展機構遠位部の癒着や瘢痕により、筋収縮に伴う膝蓋骨の近位移動距離が不足した結果、張力が脛骨粗面へと伝わらない状態にある。この時、他動的に膝蓋骨の近位方向への移動が制限されていることに加えて、大腿四頭筋の収縮張力が膝蓋骨近位には伝達しているにもかかわらず、遠位部ではその張力を確認できないことを評価する(上図)。