上図を見てください。このイラストは、右脚で踏ん張った際に膝が内側に入った(knee-in)様子が描かれています。この時の足部は床に固定されていますから、knee-inした瞬間に下腿には強力な外旋強制が加わっています。この姿勢を保つためには、下腿の外旋強制に抵抗する力が必要ですから、内旋作用を持った筋肉が収縮しブレーキをかけることになります。このブレーキング機構の破綻が、疼痛と関連するわけです。Knee-in・toe-outアライメントは、結局のところ下腿の外旋強制ですから、反復される外旋ストレスに対する停止腱に生じた腱症もしくは、停止腱の間に介在する鵞足包
(腱の滑りをよくする滑液包)の滑液包炎が疼痛の原因となります。このように、knee-in・toe-outアライメントは、時として膝前面痛症候群(AKPS)を、また時として鵞足炎を引き起こす原因となりますが、アライメント以外にどの様な要因が加味されるとAKPSとなるのか、また逆に鵞足炎となるのかについては不明です。
鵞足炎の病態は前述したように、停止腱に加わる牽引力(tractionforce)が原因となる腱症と、停止腱間の摩擦(friction)が原因となる鵞足包炎の2つがあります。どちらにしても停止腱の緊張が、疼痛を誘発する要因になりますが、3本の停止腱のうちどの腱が疼痛と強く関連するかが分かれば、理学療法の方針が立てやすくなります。
ここで上図を見てください。鵞足筋群は、すべて膝関節屈伸軸の後方を通過しますから、膝関節を他動伸展することで伸張を加えることができます。例えば、股関節を屈曲内転した肢位で膝関節を他動伸展させると、縫工筋と薄筋は股関節レベルで緩みますから、この時の伸張ストレスは半腱様筋に集中します。この時に膝関節内側で疼痛を訴えた場合には、半腱様筋が疼痛発生の引き金になっていることが予想されます。同様に、股関節を屈伸中間位のまま外転した肢位で膝関節を他動伸展すると、薄筋腱に集中して伸張を加えることができ、股関節伸展内転位で膝関節を他動伸展すると、縫工筋に伸張ストレスを加えることができます。このように、鵞足を構成する3つの筋の起始部が異なることを利用して、疼痛の引き金となる筋すなわちトリガー筋を鑑別していきます。