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パフォーマンスを
向上させるための秘訣を探る

ヒトが立ったり、歩いたり、物を取ったりする時、当たり前ですが身体重心の位置変化によってパフォーマンスに違いが生じます。

例えば、身体重心が後方にあり、前に体重移動することが難しい高齢者であれば、立ち上がりやリーチ動作は楽ではありません。この高齢者の身体重心を後方から前方へスムースに誘導することができれば、立ち上がりやリーチ動作が楽に行えるようになります。つまり、パフォーマンスの向上を考えるうえで、その人の身体重心の位置変化を捉え、スムースな誘導を行うことは重要と言えます。

日本のリハビリ界において、最も多くのスポーツ選手や芸能人が訪れたとされる「足と歩きの研究所」を設立した入谷誠先生は、まさに身体重心を誘導することでパフォーマンスを向上させる天才でした。だからこそ、多くのスポーツ選手や芸能人が訪れたのだと思います。

-入谷 誠(1957-2016)
理学療法士。入谷式足底板療法の創始者。多くのトップアスリートや芸能人などに支持され、日本の足底板療法の第1人者として活躍していた。

今回は、そんな入谷誠先生の書籍から身体重心が存在する骨盤、中でも「仙腸関節」に焦点を絞り、パフォーマンスを向上させるために必要な考え方をご紹介したいと思います。

仙腸関節に関して深堀り解説!

僅かな変化を捉えるのが秘訣

骨盤には身体重心が存在し、かつ上半身と下半身を連結する部分でもあります。入谷先生は、「骨盤の動きが身体全体の動きを決定させる影響が最も大きい」と述べ、さらに「仙骨は上半身と連結し、仙骨の動きが上半身の動きに影響を与え、腸骨は下半身と連結し、腸骨の動きが下半身の動きに影響を与えている」とも述べています。

つまり、仙骨と腸骨が連結している「仙腸関節」を誘導することは、身体全体の動きを変えることになるのです。さあ、果たして本当でしょうか?

正常な仙腸関節の可動性は並進で0.5~1.6㎜、回転で1~4°程度と言われ、2㎜以上の並進および6°以上の回転は異常と報告されています。つまり、ごく僅かな可動性しか仙腸関節にはありません。そんな仙腸関節を非常にソフトなタッチで誘導し、歩行に変化を与えている入谷誠先生の実際の映像をご覧ください。

入谷先生の実際の実技映像
[仙骨と腸骨の徒手誘導]

映像を見て、おそらく感じた事は「よく観察しないと分からないほど、僅かな変化であった」ということではないでしょうか。でも、その気づきが大切なのです。この僅かな変化を捉えた先に、パフォーマンスの向上の秘訣があるのです。

仙骨と腸骨の誘導評価

誘導に伴う歩行の解釈

仙骨も腸骨も、誘導は「前傾」するか「後傾」するかです。このことは、実際の映像を通して理解できたと思います。そして、誘導後は必ず歩行を評価することで、パフォーマンスの向上が得られる方向を決定していました。書籍では、「重心移動がスムースで、体幹アライメントの変位が少なく、姿勢筋緊張が適正になる誘導を選択する」と書かれています。

「難しいな…」と感じて当然だと思いますので、まずは「重心移動がスムース」という視点で、歩行を評価すると良いと思います。是非、先ほどの映像を何回も見て、僅かな変化を捉えてみてください。そして実際に試す際は、下記の仙骨と腸骨を誘導するポイントをご覧ください。

仙骨誘導のポイント①
仙骨前傾誘導

右側の仙骨を前傾させる場合、左手の母指は仙骨部に触れ、右手は大腿骨を固定するように前方から把持して誘導を行う。この仙骨前傾誘導は立脚前半相で足尖に荷重が移動する。

仙骨誘導のポイント②
仙骨後傾誘導

右側の仙骨を後傾させる場合、左手の母指は仙骨部に触れ、右手は腸骨を固定するように前方から把持して誘導を行う。この仙骨後傾誘導は立脚前半相で踵方向に荷重が移動する。

腸骨誘導のポイント①
腸骨前傾誘導

右側の腸骨を前傾させる場合、左手の母指は仙骨を固定するように触れ、右手は腸骨稜を包むように把持して誘導を行う。この腸骨前傾誘導は立脚後半相で足部内側に荷重が移動する。

腸骨誘導のポイント②
腸骨後傾誘導

右側の腸骨を後傾させる場合、左手の母指は仙骨を固定するように触れ、右手は腸骨稜を包むように把持して誘導を行う。この腸骨後傾誘導は立脚後半相で足部外側に荷重が移動する。

誘導に伴う歩行の特徴

仙骨の誘導は、立脚前半相の動きを変化させる働きがあり、「仙骨前傾」は早期に体重が前方へ移動し、足部の「距骨下関節回外」の作用と相関があります。また、「仙骨後傾」は踵方向へ荷重を留め、足部の「距骨下関節回内」の作用と相関があります。

仙骨誘導のポイント①
仙骨前傾誘導

腸骨の誘導は、立脚後半相の動きを変化させる働きがあり、「腸骨前傾」は足部内側へ体重が移動し、「1列底屈」の作用と相関があります。また、「腸骨後傾」は足部外側へ体重が移動し、「1列背屈」の作用と相関があります。

仙骨誘導のポイント②
仙骨後傾誘導

これらの誘導を行った結果、「仙骨前傾・腸骨前傾」「仙骨前傾・腸骨後傾」「仙骨後傾・腸骨前傾」「仙骨後傾・腸骨後傾」の4つのパターンのうちどれが一番パフォーマンスの向上が得られるのかを評価し決定します。

腸骨誘導のポイント①
腸骨前傾誘導

こうした特徴は、インソールを作製する際の重要な指標となりますので、興味があれば『入谷誠の理学療法』5章「治療:入谷式足底板」を読んでみてください。

腸骨誘導のポイント②
腸骨後傾誘導

臨床に応用してみよう!

さて、とにかくまずは実際にやってみるのが大切です。もし、職場の人で誘導されると「歩きやすい、歩きにくい」と言うのが分かる人がいたら、その人を指標にすると勉強になります。運動神経の良し悪しに関わらず、誘導されると「歩きやすい、歩きにくい」が分かる人と、分からない人がいるので、身近にいるとラッキーです。

手順としては、まず仙骨前傾・腸骨前傾と仙骨後傾・腸骨後傾を比較してください。どちらの誘導が「重心移動がスムースで、体幹アライメントの変位が少なく、姿勢筋緊張が適正になる誘導」でしょうか。僅かな変化ですので、よく観察してください。

もし、「仙骨前傾・腸骨前傾」が良いと判断したら、今度は「仙骨前傾・腸骨後傾」と比較しましょう。反対に「仙骨後傾・腸骨後傾」が良いと判断したら、今度は「仙骨後傾・腸骨前傾」と比較しましょう。

4つのパターンのうちどれが一番パフォーマンスの向上が得られるのかを評価し決定したら、靴の中敷きにパッドを貼ってみましょう。誘導されると「歩きやすい、歩きにくい」が分かる人であれば、パッドでも同じような反応が得られると思います。具体的な手順については、下記の通りです。

①靴の中敷きに足を載せてマーキングする

靴の中敷きに足を載せて、「内果下端と第1足根中足関節面」をマーキングする。

②仙骨誘導方向に合わせてパッド貼る
仙骨前傾誘導の場合:距骨下回外誘導

中敷きにマーキングした仙骨前傾誘導(距骨下関節回外誘導)の場合は載距突起部を中心に厚さ1mm・大きさ30~40mm×15mm程度のパッドを処方する(厚さについては後述している)。

仙骨後傾誘導の場合:距骨下回内誘導

仙骨後傾誘導(距骨下関節回内誘導)の場合は何も処方しない。

③腸骨誘導方向に合わせてパッド貼る。
腸骨前傾誘導の場合:第1列背屈誘導

腸骨前傾誘導(第1列背屈誘導)の場合は、第1足根中足関節面より前方部分の中足骨部に、厚さ1mm・大きさ30~40mm×15mmのパッドを処方する。​

腸骨後傾誘導の場合:第1列底屈誘導

腸骨後傾誘導(第1列底屈誘導)の場合は、第1足根中足関節面より前方部分の内側端の部分に、厚さ1mm・大きさ30~40mm×5mmのパッドを処方する。

まずは見様見真似で構いませんので、とにかくやってみましょう!そして再び僅かな変化を捉えてみましょう。
こうした過程を繰り返すことで、僅かな差や動きの変化が捉えられるようになります。入谷先生は「どの分野においても、臨床を極めるには繰り返しの作業と試行錯誤が必要である」と述べています。
多くのスポーツ選手や芸能人が訪れるには理由があります。身体重心を誘導することでパフォーマンスを向上させる天才は、こうした僅かな差や変化を瞬時に捉え、より良好な動きを引き出していたのです。
今回は、「仙腸関節」に焦点を絞り、パフォーマンスを向上させるために必要な考え方をご紹介しました。最後に、ここまで読んで頂いたあなたに私からプレゼントがあります。
あれは入谷先生が亡くなった年だったと思います。私は入谷先生に「理学療法士として大切な考えを私に下さい」とお願いしましたら、紙に以下のようなメッセージを書いてくださいました。あなたもきっと、奮い立つものがあると思います。

参考図書

入谷誠の理学療法

執筆:入谷 誠、園部 俊晴

© UGOITA ALL RIGHTS RESERVED.produced by 運動と医学の出版社

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